「できた!」を共有して安心感を育む:チームの心理的安全性を高める成功体験の活かし方
リーダーとしてチームを率いる中で、「もっとメンバーに安心して発言してほしい」「互いに協力し合える雰囲気を作りたい」と感じることはありませんか。心理的安全性の高いチームを作るためには様々なアプローチがありますが、チーム内で「小さな成功体験」を意図的に共有し、認識し合うことは、安心感を育む上で非常に効果的です。
なぜ「小さな成功」の共有が心理的安全性につながるのか
心理的安全性とは、チーム内で自身の意見や感情を安心して表現できる状態を指します。この状態が生まれるには、メンバーが「このチームでは、自分が率直に話しても否定されない、馬鹿にされない、不利益を被らない」と感じられることが重要です。
小さな成功を共有することは、このような安心感を育む上でいくつかの重要な役割を果たします。
- 承認と自己肯定感の向上: 自分の取り組みや成果がチームに認識され、評価されることは、メンバーの自己肯定感を高めます。「自分はチームに貢献できている」という感覚は、自信を持って発言したり、新しい挑戦をしたりするための土台となります。
- ポジティブな雰囲気の醸成: 成功体験の共有は、チーム全体にポジティブなエネルギーをもたらします。「自分たちにもできる」「次はもっと良くしよう」という前向きな気持ちは、チームの雰囲気を明るくし、心理的なハードルを下げます。
- 協力関係の強化: 誰かの成功を知ることは、そのプロセスにおける工夫や苦労を理解することにつながります。また、成功を共有し祝福し合うことで、メンバー間の共感や連帯感が生まれます。これは、互いの挑戦を応援し、困難な時には助け合える協力的な関係性の構築に寄与します。
- 学習機会の創出: 他のメンバーの成功事例から、新しい知識や効果的な方法を学ぶことができます。成功の背景にある要因や、乗り越えた課題を共有することで、チーム全体の学習能力が高まります。
「小さな成功」とは何か?
「小さな成功」とは、必ずしもプロジェクトの大成功や、大きな業績達成を指すわけではありません。日々の業務の中にある、以下のようなささやかな進歩や貢献も含まれます。
- 担当業務で一つ課題を解決できた
- 新しいツールや方法を試してみた
- 他のメンバーを少し助けた
- ミーティングで積極的に発言できた
- 以前よりスムーズに作業が進んだ
- 新しいアイデアを思いついた
- 顧客や他部署から感謝された
- 失敗から重要な学びを得た
重要なのは、その大小ではなく、本人やチームが「できたこと」「乗り越えたこと」「貢献できたこと」として認識し、ポジティブに捉えることです。
小さな成功を共有し、心理的安全性を高めるリーダーの実践ステップ
リーダーが意図的に小さな成功の共有を促し、心理的安全性につなげるための具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:共有の機会を定期的に設ける
成功体験を共有するための「場」や「時間」を意識的に設けることが重要です。
- 定例ミーティングの冒頭や終盤: 短時間でも良いので、「最近あった良かったこと」「クリアできたこと」などを共有する時間を設けます。
- 週報や日報: 書式に「今週(今日)できたこと、工夫したこと」といった項目を追加します。
- チームチャット: カジュアルに成功を報告し合える専用のスレッドやチャンネルを作ることも有効です。
- 1on1ミーティング: メンバー個人の「できたこと」「成長したこと」をじっくり聞き、承認する時間とします。
ステップ2:リーダー自身が共有を促す声かけをする
ただ場を設けるだけでなく、リーダーから積極的にメンバーに共有を促す声かけをします。
- 「最近、何か『これはうまくいったな』と感じることはありますか?」
- 「先週取り組んでいた〇〇件、何か進展や新しい発見はありましたか?」
- 「Aさんが××について工夫していたと聞きました。どんな風に取り組んだか、ぜひチームに共有してもらえませんか?」
- 「〇〇さんの今日の報告、とても分かりやすかったです。資料の作成で何か気をつけたことはありますか?」
- 「今日のこの会議で、皆さんが積極的に意見を出してくれたことは、チームとして大きな一歩ですね。ありがとうございます。」
このように具体的に問いかけたり、特定の行動に焦点を当てたりすることで、メンバーは何を共有すれば良いか分かりやすくなります。
ステップ3:共有された成功を丁寧に「聴き」、具体的に「承認」する
メンバーが共有してくれた内容に対して、リーダーは真摯に耳を傾け、具体的に承認することが極めて重要です。
- 丁寧に聴く: 遮らずに最後まで聴き、内容を理解しようと努めます。必要であれば、「それはつまり、こういうことですね?」と確認します。
- 具体的に承認する: 単に「良かったね」で終わらせず、何が具体的に良かったのか、それがチームや本人の成長にどう繋がるのかを伝えます。
- 「〇〇さんが新しいツールを試してくれたおかげで、作業時間が△△分短縮されました。これはチーム全体の生産性向上に大きく貢献しています。ありがとう。」
- 「Aさんが進んで顧客にヒアリングしてくれたことで、課題の本質が見えましたね。勇気を出して一歩踏み出してくれたこと、素晴らしいです。」
- 「この資料のこのグラフ、とても分かりやすいですね。作成時にどんなことを意識しましたか?」
- プロセスや工夫に焦点を当てる: 結果だけでなく、そこに至るまでのプロセスや本人の工夫、努力に焦点を当てることで、たとえ大きな成果につながらなくても、挑戦や学び自体が承認される文化が生まれます。
ステップ4:成功体験をチーム全体の学びにつなげる
共有された成功体験を、個人や一部のメンバーのものとしてだけでなく、チーム全体の学びや財産として活用します。
- 横展開を検討する: 共有された方法やアイデアが、他のメンバーの業務にも応用できないか検討します。
- ドキュメント化する: 有益な知見や成功事例は、チームの共有ドキュメントなどにまとめておくと、後から参照できます。
- 「なぜうまくいったのか?」を深掘りする: 成功の要因をチームで一緒に考えることで、成功を再現するための共通理解が深まります。
- 失敗からの学びも「成功」として共有する: うまくいかなかったことから得られた重要な学びや、次にどう活かすかという視点も、チームの成長につながる「成功」として共有を促します。
ステップ5:ポジティブな連鎖を生み出す
リーダーが率先して小さな成功を共有し、メンバーの共有を丁寧に承認することで、チーム内にポジティブなサイクルが生まれます。メンバーは「ここでは良いことも共有して認められる」と感じ、安心して自分の貢献や学びを話せるようになります。これが心理的安全性の基盤となります。
まとめ
心理的安全性の高いチームは、メンバーが安心して発言し、挑戦し、互いに協力し合える場所です。そのためには、日々の業務の中で生まれる「小さな成功」を見つけ出し、意図的に共有し、承認し合う文化を作ることが非常に有効です。
新任リーダーの皆様にとって、大きな成果をすぐに挙げることはプレッシャーかもしれませんが、まずはチームやメンバーの「できたこと」に目を向け、それを丁寧に拾い上げ、ポジティブに共有することから始めてみてください。この小さな一歩が、チームに安心感と活力をもたらし、より良い関係性を築く基盤となるはずです。
ぜひ、明日から一つでも多くの「小さな成功」をチーム内で共有してみてください。それが、心理的安全性の第一歩となるでしょう。