心理的安全性を活かす:チーム内の意見の相違を成長の機会に変えるファシリテーション
チームを率いるリーダーとして、日々の業務の中でメンバー間の意見の相違に直面することは少なくありません。時には、あるべき方向性や具体的な進め方について、複数の意見が対立することもあるでしょう。このような状況は、心理的安全性が低いチームでは、発言を躊躇させたり、場の空気を悪化させたりする原因となり得ます。しかし、心理的安全性が十分に確保されたチームであれば、意見の相違は単なる衝突ではなく、チームがより深く思考し、多様な可能性を探求し、最終的により良い意思決定へと到達するための貴重な機会となり得ます。
本記事では、心理的安全性を維持しながら、チーム内の意見の相違を建設的な成長の機会に変えるためのリーダーによるファシリテーションの基本的な考え方と具体的なステップについて解説します。
意見の相違がチームにもたらす価値
意見の相違と聞くと、ネガティブなイメージを抱く方もいらっしゃるかもしれません。しかし、適切に扱われた意見の相違は、チームにとって以下のような重要な価値をもたらします。
- 多角的な視点の獲得: 一つの問題に対して、異なる経験や知識を持つメンバーが多様な視点から意見を出すことで、リーダー一人では気づけなかった盲点やリスク、あるいは新たな可能性を発見できます。
- 創造性の向上: 複数の意見やアイデアがぶつかり合う過程で、それらを組み合わせたり発展させたりすることで、より革新的で創造的な解決策が生まれることがあります。
- 意思決定の質の向上: 多様な意見を十分に検討することで、より多くの情報を基にした、より強固で実行可能な意思決定が可能になります。
- メンバーの参画意識と納得感の醸成: 自身の意見が尊重され、議論のプロセスに参加することで、メンバーは決定事項に対する責任感や納得感を持ちやすくなります。
これらの価値を引き出すためには、心理的安全性が不可欠です。「自分の意見を言っても大丈夫だ」「異なる意見を述べても否定されない」という安心感があるからこそ、メンバーは率直に考えを表明できるようになります。
意見の相違が起きた時のリーダーの心構え
意見の相違に直面した際、リーダーがどのような姿勢で臨むかは、その後の議論の行方を大きく左右します。
- すべての意見を尊重する: どんな意見であっても、それを表明したメンバーの勇気と貢献を認め、頭ごなしに否定しない姿勢が重要です。たとえ採用されない意見であっても、「なぜそう考えたのか」に関心を持ち、真摯に耳を傾けます。
- 感情的にならない、中立性を保つ: 意見の対立が熱を帯びてきた時でも、リーダー自身が感情的になったり、特定の意見や人物に肩入れしたりすることは避けてください。あくまで議論の促進者として、冷静で公平な立場を保つよう努めます。
- プロセスに焦点を当てる: 誰が正しいか、誰が間違っているかではなく、どのようにすればチームとして最善の結論に至れるか、というプロセスに焦点を当てます。議論が白熱してきたら、「一旦、目的を思い出しましょう」など、立ち戻る言葉を投げかけることも有効です。
- 自分の意見を「一つの意見」として扱う: リーダー自身も意見を持つことは当然ですが、それを絶対的な正解として押し付けるのではなく、他のメンバーの意見と同様に議論の俎上に載せる意識が必要です。リーダーの意見は影響力が大きいため、他の意見が出尽くした後に表明するなど、配慮することも考えられます。
意見の相違を成長に変えるファシリテーションのステップ
それでは、具体的にどのようにファシリテーションを進めれば良いのでしょうか。以下に、意見の相違がある場面で役立つステップをご紹介します。
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意見表明を促し、「聴く」姿勢を示す:
- まず、「この件について、皆さんの意見を幅広く聞きたいと考えています」などと伝え、異なる意見があることを前提とした対話の場であることを明確にします。
- メンバーが意見を述べ始めたら、中断せずに最後まで聴き、頷きやアイコンタクトなどで「受け止めている」ことを伝えます。
- 「〜ということですね」「つまり、〇〇について懸念があるということでしょうか」のように、相手の言葉を繰り返したり、要約したりすることで、理解しようとしている姿勢を示し、メンバーの発言をさらに促します。
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すべての意見を「見える化」する:
- ホワイトボード、付箋、共有ドキュメント、オンラインホワイトボードツールなどを活用し、出てきた意見をすべて書き出し、チーム全体で見えるようにします。
- 意見を出す際に、誰が言ったかではなく「意見の内容」に焦点を当てることが重要です。匿名での意見提出を一時的に許可する、発言の最初に「〜という考え方もあると思うのですが」と主語をぼかすなどの工夫も有効です。
- 視覚化することで、どのような意見が出ているか、共通点はどこか、何が主要な論点かが整理されやすくなります。
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意見の背景や意図を深掘りする:
- 異なる意見が出た場合、「なぜそう思いましたか?」「その考えに至った背景には何がありますか?」「その意見のメリットやデメリットはなんだと思いますか?」など、質問を通じて意見の根拠や考えの出発点を明らかにしていきます。
- これにより、表面的な対立ではなく、それぞれの意見がどのような懸念や目的に基づいているのかをチーム全体が理解できます。これは共感を生み、建設的な議論へと繋がる土台となります。
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共通点と相違点を整理する:
- 見える化された意見の中から、皆が同意している点(共通認識)と、考えが分かれている点(論点)を明確にします。
- 「〇〇という点については皆同じ考えですね」「意見が分かれているのは、△△を優先するか、それとも□□を優先するか、という点ですね」のように、現状を整理してチームに伝えます。
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対話を促進し、合意形成を目指す:
- 整理された論点について、改めて議論を深めます。特定のメンバーだけが話し続けるのではなく、「他の皆さんはどう考えますか?」「今の意見についてどう感じますか?」などと問いかけ、発言機会を均等に配分するよう促します。
- 感情的な発言や個人攻撃があった場合は、「私たちはこの問題を解決するために話しています。建設的な言葉遣いを心がけましょう」などと毅然とした態度で介入し、場を穏やかに保ちます。
- すべての意見の良い点を組み合わせた解決策(統合案)を探る、あるいは、今はどちらの意見を採用すべきかの判断基準について話し合うなど、単なる多数決ではない、より質の高い合意形成プロセスを支援します。
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決定事項とネクストステップを明確にする:
- 議論の結果、何が決定されたのか、なぜそのように決定したのかを明確にまとめ、チーム全体で確認します。
- 意見が採用されなかったメンバーに対しても、「〇〇さんの△△という視点も非常に重要でした。今回は××という理由でこの案を採用しますが、頂いた視点は今後の□□に活かしていきましょう」など、感謝と配慮の言葉を伝えます。
- 決定された内容に基づき、次に誰が何をいつまでに行うのか、具体的な行動計画を明確にします。
意見の相違を乗り越えた後のフォローアップ
意見の相違を乗り越え、チームとして決定を下した後も、リーダーの役割は続きます。
- 決定事項へのコミットメントを確認する: 決定した内容について、メンバーがどの程度納得し、実行に移す準備ができているかを確認します。懸念が残っている場合は、改めて対話の機会を持つことも重要です。
- 議論のプロセスを振り返る: 今回の意見の相違を巡る議論が、チームにとってどのような学びになったかを振り返ります。「異なる意見を言うことの難しさ」「建設的に話し合うために必要だと感じたこと」などを共有し、今後の対話に活かせるよう促します。
- 成功体験として共有する: 意見の相違を乗り越え、より良い結論に達した経験は、チームの自信となり、心理的安全性をさらに高めます。「異なる意見を恐れずに話せば、こんなに良い結果につながるんだ」という体験をチームで共有することで、今後の議論がより活発になります。
まとめ
チーム内の意見の相違は、避けるべきものではなく、適切に扱うことでチームを大きく成長させる可能性を秘めたものです。心理的安全性の高い環境では、メンバーは安心して多様な意見を表明できます。リーダーは、その多様な意見を単なる対立で終わらせず、チームの力に変えるための「ファシリテーター」としての役割を果たすことが求められます。
今回ご紹介した具体的なステップや心構えを実践することで、意見の相違を恐れない、建設的な対話ができるチーム、そして困難を乗り越えて成長し続けるチームを築くことができるでしょう。