メンバーの不安や懸念にどう向き合うか:心理的安全性を高めるリーダーの実践ガイド
はじめに:なぜメンバーの不安や懸念に向き合うことが重要なのか
チームを率いる上で、メンバーが業務やチーム環境に対して様々な不安や懸念を抱えていることがあります。これらの感情は、表面化しないまま放置されると、パフォーマンスの低下、チームワークの悪化、最悪の場合、メンバーの離職につながる可能性もございます。
新任リーダーの皆様の中には、「メンバーの本音が聞けない」「何を考えているか分からない」といった課題をお感じの方もいらっしゃるかもしれません。メンバーが不安や懸念を率直に表現できる状態、つまり心理的安全性が高い状態を築くことは、これらの課題を解決し、チームを健全に運営していく上で不可欠です。
この記事では、チームメンバーが抱える不安や懸念のサインに気づき、それに適切に向き合い、心理的安全性を高めるための具体的な実践方法をご紹介いたします。
不安や懸念が表面化しない背景:心理的なハードルを理解する
メンバーが不安や懸念をリーダーに直接伝えにくい背景には、いくつかの心理的なハードルが存在します。
- 評価への恐れ: 不安や懸念を口にすることで、能力不足やネガティブな人間と見なされるのではないかという心配。
- 迷惑をかけたくない: 自分の問題でリーダーやチームに負担をかけたくないという遠慮。
- どうせ変わらないという諦め: 以前に相談しても改善されなかった経験から、話しても無駄だと感じてしまう。
- 言葉にするのが難しい: 自分自身の感情や状況を整理し、適切に伝えるスキルや自信がない。
これらのハードルを理解することが、メンバーが安心して話せる雰囲気を作る第一歩となります。心理的安全性が低いチームでは、これらの恐れや諦めがより強固になり、メンバーは本音を隠すようになります。
不安や懸念の「サイン」に気づくための観察ポイント
メンバーは、言葉で直接「不安です」「困っています」と伝えない場合でも、様々なサインを発していることがあります。日頃からメンバーをよく観察し、これらのサインに気づく感度を高めることが大切です。
観察すべき具体的なポイント:
- 言動の変化:
- 普段より口数が減る、あるいは増える。
- 質問や発言が極端に少なくなる、または増える。
- 表情が曇りがち、視線が合わないことが増える。
- 以前は積極的だったのに消極的になる。
- 些細なことでイライラしたり、不機嫌になったりする。
- 行動の変化:
- 業務の進捗が滞る、期日を守れなくなる。
- 報連相が遅れる、または簡略化される。
- 会議やチームの集まりに参加したがらなくなる。
- 休憩時間などに一人で過ごすことが増える。
- 体調を崩しやすくなる、遅刻や欠勤が増える。
- 業務内容や環境の変化:
- 急な異動や配置換えがあった。
- 担当業務内容が大きく変わった。
- 特定のメンバーとの間にぎくしゃくした雰囲気がある。
- 社内の制度変更など、組織全体に影響する出来事があった。
これらのサインはあくまで一例であり、個々のメンバーによって現れ方は異なります。日頃からメンバーとの良好なコミュニケーションを心がけ、それぞれの「いつもと違う」状態に気づけるように意識することが重要です。
不安や懸念に寄り添い、話を聞くための具体的アプローチ
サインに気づいたり、メンバーが話しかけてきたりした際に、どのように対応すればメンバーは安心して話せるでしょうか。心理的安全性を高めるための具体的なコミュニケーションスキルをご紹介します。
1. 話しやすい雰囲気を作る
- 傾聴の姿勢: メンバーが話している間は、パソコンやスマートフォンから目を離し、体ごとメンバーの方に向けて注意深く耳を傾けます。相槌を打ったり、頷いたりして、関心を持って聞いていることを示します。
- 非言語コミュニケーション: 穏やかな表情、落ち着いた声のトーンを心がけます。否定的な態度や焦りの表情は見せません。
- 物理的な配慮: 周囲の音が気にならない場所を選んだり、座って落ち着いて話せるように促したりします。
2. 安心感を与える言葉を選ぶ
- 肯定的な受容: メンバーが話し始めたら、「話してくれてありがとう」といった感謝の言葉を伝えます。話の内容を否定したり、途中で遮ったりせず、まずは最後まで聞くことに徹します。
- 共感を示す: メンバーの感情や状況に対して、「それは大変でしたね」「そう感じられたのですね」といった共感の言葉を返します。ただし、安易な同情や、経験を比べるような自分の話は避けます。
- 安心させる言葉: 「ここで話したことは、あなたと私の間だけの話にしましょう(ただし、他者との連携が必要な場合は、その旨を正直に伝える)」「話せる範囲で構いませんよ」といった言葉で、話すことへのハードルを下げます。
具体的な声かけの例:
- 「最近、少し元気がないように見えたのですが、何か心配事でもありますか?もしよければ、話を聞かせてもらえませんか。」
- 「〇〇さんのいつもの調子と違うように感じているのですが、何か抱えていることはありませんか?もし話したいことがあれば、いつでも聞く準備はできています。」
- (メンバーが話し始めたら)「話してくれてありがとうございます。〇〇さんはそう感じていらっしゃるのですね。」
3. オープンな質問を活用する
「はい」「いいえ」で答えられるクローズドな質問ではなく、メンバーが自分の状況や気持ちを詳しく話せるようなオープンな質問を使います。
オープンな質問の例:
- 「具体的に、どのような点が不安だと感じていますか?」
- 「その状況について、もう少し詳しく聞かせていただけますか?」
- 「その時、〇〇さんはどのように感じましたか?」
- 「何か、私がサポートできることはありますか?」
共に解決策を考え、必要なサポートにつなげるステップ
メンバーが不安や懸念を話してくれた後、リーダーとしてどのように対応すべきでしょうか。すぐに解決策を提示するのではなく、共に考える姿勢が重要です。
- 状況の確認と整理: メンバーの話を聞いて、問題の状況、メンバーの感情、具体的な影響などを整理します。必要であれば、「つまり、〇〇ということでしょうか?」と確認します。
- 期待のすり合わせ: メンバーが今回の話に何を期待しているのか(ただ聞いてほしいのか、アドバイスがほしいのか、具体的な行動を求めているのか)を確認します。
- 解決策の共創: メンバーと一緒に、どのような解決策があり得るかを考えます。「どうすればこの状況が少しでも良くなると思いますか?」「何か試してみたいアイデアはありますか?」などと問いかけ、メンバー自身の考えを引き出します。リーダーとして提供できる情報やリソースがあれば伝えます。
- ネクストステップの決定: 合意した解決策や試してみることを明確にし、誰がいつまでに何をするのか、具体的な行動計画を立てます。
- フォローアップ: 一度話を聞いて終わりではなく、その後どうなったか、状況に変化はあったかなどを定期的にフォローアップします。これは、メンバーの話を真剣に受け止めているというメッセージになり、信頼関係をより強固にします。
一人で対応が難しい問題(ハラスメント、メンタルヘルスに関わる深刻な問題など)については、速やかに人事部門や産業医など、適切な専門部署や関係者に相談し、連携して対応することが必須です。メンバーには、必要に応じて関係部署と連携すること、ただしその際もプライバシーに配慮することを誠実に伝えます。
日常的な心理的安全性の醸成が不安軽減につながる
メンバーが「このチームなら、このリーダーになら安心して話せる」と感じられるようになるためには、特別な機会だけでなく、日頃からの心理的安全性の醸成が不可欠です。
- オープンなコミュニケーションの奨励: チーム全体で、疑問や不明点を気軽に質問できる雰囲気を作ります。「こんなこと聞いていいのかな?」という遠慮をなくすために、「どんな質問も歓迎です」というメッセージを継続的に発します。
- 失敗を責めない文化: 失敗したメンバーを非難するのではなく、原因を分析し、次に活かすための学びと捉える姿勢を示します。リーダー自身が適度に失敗談を共有することも有効です。
- 感謝と承認の表明: メンバーの貢献や努力に対して、具体的な言葉で感謝や承認を伝えます。小さな成功や日々の頑張りも見逃さず称賛することで、メンバーの自己肯定感を高めます。
- リーダー自身の自己開示: リーダー自身が完璧ではないこと、悩むこともあることなどを適度に共有することで、人間的な側面を見せ、メンバーとの距離を縮めます。
これらの日々の積み重ねが、メンバーが不安や懸念を一人で抱え込まず、「チームに頼ろう」「リーダーに相談してみよう」と思える土壌を育みます。
まとめ:安心できる場所としてのチームを作るために
チームメンバーが抱える不安や懸念に向き合うことは、心理的安全性を高め、ひいてはチームのパフォーマンス向上、メンバーのエンゲージメント強化につながるリーダーの重要な役割です。
そのためには、メンバーが出すサインに気づく感度を高め、彼らが安心して話せる傾聴の姿勢と共感的なコミュニケーションを身につけることが第一歩です。そして、問題を共に考え、必要なサポートを提供する具体的なステップを踏むことが求められます。
最も大切なのは、日頃から心理的安全性を意識したチーム運営を行い、「ここは安心して自分の気持ちや考えを話せる場所だ」とメンバーが心から感じられる関係性を築いていくことです。
この記事でご紹介した実践方法が、皆様が安心できる強いチームを築いていくための一助となれば幸いです。