心理的安全性を育む リーダーのための「聴く」質問術
はじめに
チームを率いる中で、「部下が何を考えているのかよく分からない」「もっと本音を聞きたいけれど、どうすれば良いか分からない」と感じることはありませんでしょうか。このような課題は、多くのリーダーが直面するものです。
チーム内の心理的安全性が低いと、メンバーは自分の意見や懸念を安心して表明できず、結果としてリーダーはチームの状態を正確に把握できなくなります。心理的安全性とは、チーム内で率直に発言したり、質問したり、失敗を認めたりしても、対人関係上のリスクを感じない状態のことです。この安全な土壌を育むことは、チームのパフォーマンス向上やイノベーション創出において極めて重要です。
そして、この心理的安全性を築くための強力なツールの一つが、「聴く」姿勢を伴った質問です。この記事では、心理的安全性を高め、メンバーの本音を引き出すための具体的な質問のテクニックと、それを実践するためのポイントについて解説します。
なぜ「質問」が心理的安全性を高めるのか
一方的に指示を出すのではなく、メンバーに質問を投げかけ、その回答を丁寧に「聴く」ことは、単なる情報収集以上の意味を持ちます。
- 信頼関係の構築: 質問を通じてメンバーに関心を示すことは、「あなたの意見を尊重しています」というメッセージになります。これにより、リーダーとメンバー間の信頼関係が深まります。
- 主体性の促進: メンバー自身が考え、言葉にすることで、課題解決や目標達成に対する主体性が育まれます。
- 多様な視点の発見: リーダー一人では気づけない、現場のリアルな課題や新しいアイデアを引き出すことができます。
- 安心感の醸成: 自分の意見を言っても否定されない、受け止めてもらえるという経験は、メンバーに安心感を与え、「このチームでは安心して発言できる」という心理的安全性を高めます。
心理的安全性を育む「聴く」ための具体的な質問テクニック
効果的な質問は、相手が深く考え、安心して話せるように促します。ここでは、いくつかの具体的な質問のタイプと例をご紹介します。
1. オープンクエスチョンを活用する
「はい」か「いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンに対し、オープンクエスチョンは相手が自由に考え、詳細を話せるように促します。「何が」「どのように」「どのような」「についてどう思うか」といった言葉で始まる質問です。
- 例:
- 「このプロジェクトについて、今どのような状況ですか?」
- 「〇〇さんから見て、この課題の最も難しい点は何ですか?」
- 「改善に向けて、具体的にどのようなことができると思いますか?」
- 「最近、業務で嬉しかったことや、少し気になっていることはありますか?」
2. 共感を伝え、話を深める質問
相手の話を理解しようとする姿勢を示す質問です。「〜ということでしょうか?」「つまり〜なんですね?」といった形で相手の話を要約したり、感情に寄り添ったりします。
- 例:
- 「〇〇について、少し不安を感じていらっしゃるということでしょうか?」
- 「(相手の話を受けて)それは大変でしたね。具体的には、どんな状況だったのですか?」
- 「チームの連携についてお話しいただきましたが、特にどのような点で連携が課題だと感じていますか?」
3. 状況や背景を掘り下げる質問
抽象的な話ではなく、具体的な状況や背景を尋ねることで、課題の本質やメンバーの経験をより深く理解するための質問です。
- 例:
- 「そのように感じたのは、具体的にどのような出来事があった時ですか?」
- 「そのアプローチを選んだ理由を、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」
- 「以前〇〇さんが成功した事例について、その時の状況や工夫した点を教えていただけますか?」
4. 未来や解決策に向けた質問
過去や現在の問題に留まらず、今後の行動や解決策に焦点を当てることで、前向きな対話を促し、メンバー自身に解決策を考えるきっかけを与える質問です。
- 例:
- 「この状況をより良くするために、明日からどんな小さな一歩が踏み出せそうですか?」
- 「もし理想の状態があるとしたら、それはどのような状態ですか?」
- 「その目標を達成するために、私やチームはどのようなサポートができますか?」
質問する際に大切にしたい「聴く」姿勢と環境作り
質問そのものも重要ですが、それ以上に、メンバーが安心して話せるような「聴く」姿勢と環境作りが不可欠です。
- 非言語コミュニケーション: 相手の目を見て、頷きながら聴く。腕を組まず、開いた姿勢で臨む。これにより、安心感と信頼感を伝えます。
- 傾聴に徹する: 相手の話を途中で遮らず、最後まで聴く。すぐに自分の意見やアドバイスを挟まず、まずは相手の言葉を受け止めます。
- 判断や否定をしない: メンバーがどのような意見や懸念を表明しても、頭ごなしに否定したり、評価したりしません。「そう感じているんだな」と、まずはそのまま受け止めます。
- プライバシーへの配慮: 仕事に関係のない個人的なことや、話したがらない話題について無理に聞き出そうとしない配慮が必要です。
- 対話の機会を設ける: 定期的な1対1のミーティング(1on1)を設定する、チームミーティングの冒頭に短いチェックインの時間を設けるなど、メンバーが安心して話せる定期的な「場」を意図的に作ります。
実践への第一歩
「いきなり難しい質問は…」と感じる必要はありません。まずは、今日から始められる小さな一歩を踏み出してみてください。
- 1on1で試す: 次回の1on1で、「最近、仕事で楽しかったことは何ですか?」「何か困っていることはありませんか?」といった、シンプルなオープンクエスチョンを一つ投げかけてみる。
- チームミーティングで試す: ミーティングの終わりに、「今日のミーティングで、何か気になることや、もう少し話し合いたかったことはありますか?」と問いかけてみる。
- 日常のちょっとした会話で試す: メンバーとの立ち話で、「〇〇の件、順調に進んでいますか?何か手伝えることはありますか?」と具体的に質問してみる。
まとめ
リーダーが心理的安全性の高いチームを築く上で、「聴く」姿勢を伴った効果的な質問は非常に有効な手段です。オープンクエスチョン、共感を伝える質問、状況を掘り下げる質問、未来に向けた質問などを意図的に活用し、何よりも「判断せず、丁寧に聴く」という姿勢を大切にしてください。
質問を通じてメンバーの率直な声に触れる経験は、リーダー自身の成長につながるだけでなく、チーム全体の信頼関係と心理的安全性を確実に高めていくでしょう。焦らず、小さな実践から始めてみてください。継続することが、安全なチームの土壌を育む鍵となります。