心理的安全性の「今」を知る:メンバーへの聴き取り実践ガイド
チームにおける心理的安全性は、メンバーが安心して意見を述べたり、質問したり、失敗を認めたりできる土壌であり、これが高いほどチームのパフォーマンスやエンゲージメントが向上することが知られています。リーダーとして、チームの心理的安全性の状況を正しく把握することは非常に重要です。
しかしながら、「心理的安全性が高いか低いか」は、表面的な雰囲気だけでは判断しにくい側面があります。メンバーが遠慮しているにも関わらず、表面的には「問題ありません」と答えることもあります。新任リーダーの方々の中には、「どうすればメンバーの本音を聞き出せるのか」「チームの本当の雰囲気が掴めない」といった課題をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、チームの心理的安全性の「今」を知るために、メンバーへの丁寧な聴き取りを行う具体的な方法と実践ステップをご紹介します。
なぜ、メンバーへの「聴き取り」が重要なのか
心理的安全性の状態は、メンバー一人ひとりの感じ方によって異なります。リーダーからの一方的な働きかけや、一般的な指標だけでは、チーム内に潜む個別の不安や懸念、あるいはメンバー間の微妙な関係性に気づけないことがあります。
メンバーへの聴き取りは、以下のような目的のために重要です。
- 現状の正確な把握: メンバーがどのような状況で「安心して話せる」と感じ、どのような状況で「遠慮してしまう」のか、具体的なエピソードを通じて理解します。
- 潜在的な課題の発見: 表面化していないメンバーの不安や、チーム内の小さな問題を早期に発見する手がかりを得ます。
- 改善策の具体化: 聴き取った内容に基づいて、どのような点にリーダーシップの焦点を当てるべきか、具体的な改善策を検討する材料とします。
- 信頼関係の深化: リーダーがメンバーの話を真摯に聞く姿勢を示すこと自体が、メンバーからの信頼を得ることにつながり、心理的安全性の向上に貢献します。
心理的安全性を知るための聴き取り 実践ステップ
メンバーへの聴き取りを行う際には、いくつかの重要なポイントがあります。単に「心理的安全性はどうですか?」と尋ねるだけでは、具体的な本音を引き出すことは難しいでしょう。
ステップ1:聴き取りの目的と準備
聴き取りを行う前に、その目的を明確にします。「チームの心理的安全性の現状を、メンバーの視点から理解すること」という目的意識を持つことが大切です。
そして、聴き取りのための環境を整えます。
- 安心できる場を設定する: 聴き取りは、他のメンバーに聞かれる心配のない、静かで落ち着いた場所で行うのが望ましいです。1on1ミーティングの時間を活用したり、オンラインであればプライベートな空間を確保したりします。
- 十分な時間を確保する: 焦らずじっくりと話を聞けるよう、事前に時間を確保し、途中で中断されないようにします。
- リーダー自身の準備: 「メンバーの話を評価・判断するのではなく、ただ理解する」という姿勢を心に決めます。先入観を持たず、オープンな気持ちで臨みます。
ステップ2:オープンな質問で本音を引き出す
聴き取りの核心となるのは、メンバーが自由に話せるような「オープンな質問」を投げかけることです。はい/いいえで答えられるクローズドな質問ではなく、具体的な状況や感情を語ってもらいやすい質問を意識します。
以下に、心理的安全性の状態を知るための質問例をいくつか挙げます。これらの質問は、直接的に「心理的安全性はありますか?」と尋ねるよりも、メンバーが具体的な経験に基づいて話しやすいため効果的です。
- 「最近、チームで仕事をしていて、どんな時に一番安心して自分の意見や懸念を話せると感じますか?」
- 「反対に、どんな時に少し遠慮してしまったり、これは言わないでおこうと思ったりすることがありますか?それはなぜでしょうか?」
- 「新しいアイデアや、まだ形になっていない考えについて、チーム内で自由に共有できていますか?どんな時にそう感じますか、あるいはそう感じませんか?」
- 「もし何かミスをしてしまった時、チームの中で率直にそれを報告しやすいと感じますか?どんな経験がありますか?」
- 「他のメンバーに助けを求めたい時、気軽に声をかけやすいと感じますか?何か具体的な例はありますか?」
- 「チームの目標や仕事の進め方について、疑問に思ったことや提案したいことを、どの程度自由に発言できると感じますか?」
これらの質問はあくまで例です。メンバーの話しやすさや状況に合わせて、言葉遣いや順番を調整してください。大切なのは、「何を感じているのか」「どのような経験をしたのか」を具体的に語ってもらうことです。
ステップ3:丁寧な「聴く」姿勢を保つ
質問を投げかけた後は、リーダーが「聴く」ことに徹します。
- アクティブリスニング: メンバーの話に注意深く耳を傾け、相槌や頷き、視線を合わせるなどの非言語的な反応を示します。「なるほど」「そうなんですね」といった短い相槌や、「つまり、〇〇ということでしょうか?」のように理解を確認する言葉を挟むことも有効です。
- 「沈黙」を恐れない: メンバーが考えを整理するために沈黙する時間も尊重します。すぐに次の質問を投げかけたり、間を埋めようと話し始めたりせず、メンバーが話し出すのを待ちます。
- 最後まで聞く: メンバーが話し終えるまで、話を遮らずに聞きます。話の途中で評価や反論を挟むことは避けます。
- 感情にも寄り添う: 話の内容だけでなく、メンバーの感情(楽しそう、困っている、不安そうなど)にも注意を払い、寄り添う姿勢を示します。
ステップ4:感謝を伝え、次に繋げる
聴き取りを終える際には、時間を取って率直な気持ちを話してくれたことに対し、心からの感謝を伝えます。
「お話しいただき、ありがとうございます。〇〇さんの感じていらっしゃることがよく分かりました。チームの状況を理解する上で、とても参考になります。」
また、聴き取った内容をどのようにチームに活かしていく可能性があるのか、差し支えない範囲で触れることで、メンバーは自分の声が軽んじられていないと感じることができます。「今日お話しいただいた内容は、今後のチームでの話し合いや、私のリーダーシップのあり方を考える上で、参考にさせていただきます」といった伝え方が考えられます。ただし、具体的な改善をすぐに約束することは難しい場合もあるため、期待値の調整も重要です。
補足:個別聴き取りと集団聴き取りの使い分け
上記のステップは主に1on1など、個別での聴き取りを想定しています。チーム全体の会議などで心理安全性について話し合う場を持つことも有効ですが、全員の前では本音を話しにくいメンバーもいる可能性があります。
- 個別聴き取り(1on1など): 個人の具体的な経験や感情を深く掘り下げやすい。より繊細な話題や、リーダー個人へのフィードバックなども得られやすい。
- 集団聴き取り(チーム会議など): チーム全体が共通認識を持つ機会になる。他のメンバーの意見を聞くことで、自分だけではないと感じたり、新たな視点を得たりすることもある。ただし、発言しやすい雰囲気作りがより一層重要になる。
チームの状況や目的に応じて、これらの場を組み合わせて活用することが推奨されます。
聴き取った内容をどう活かすか
メンバーから聴き取った内容は、リーダーシップやチーム運営を改善するための貴重な財産です。
- 一人で抱え込まない: 聴き取った内容全てをすぐに改善できるわけではありません。まずは情報を整理し、チーム全体の傾向や、特に改善が必要と思われる点を見極めます。
- 可能な範囲で共有する: 特定の個人が特定されない形で、チーム全体で共有することが有効な場合があります。「〇〇といった点で、少し話しにくさを感じているメンバーがいるようです」といった形で課題を共有し、チーム全体で改善策を話し合う機会を持つことも、心理的安全性を高めます。
- 具体的な行動につなげる: 聴き取った内容に基づき、リーダー自身の行動や、チームのルール、ミーティングの進め方などを具体的に見直します。そして、その改善の取り組みについて、メンバーにフィードバックします。「以前皆さんからいただいた意見を踏まえ、〇〇を改善してみます」と伝えることで、メンバーは自分の声が反映されていることを実感できます。
- 継続的な取り組みとする: 心理的安全性の状態は常に変化します。一度聴き取りを行っただけで終わりにするのではなく、定期的にメンバーの声に耳を傾ける機会を持ち続けることが大切です。
まとめ
チームの心理的安全性の「今」を正確に知ることは、効果的なリーダーシップを発揮し、より良いチームを築くための第一歩です。表面的な言葉だけでなく、メンバー一人ひとりの声に耳を傾け、その背景にある経験や感情を理解しようと努める姿勢が、本音を引き出す鍵となります。
この記事でご紹介した聴き取りのステップや質問例が、皆様のチームの心理的安全性を深く理解し、より安心できるチーム環境を育む一助となれば幸いです。実践は簡単なことばかりではないかもしれませんが、メンバーの話を真摯に聞くその行為自体が、チームの信頼関係を育む大切な一歩となるでしょう。