心理的安全性を守る:リーダーが避けるべきNG行動と具体的な対策
心理的安全性は、チームメンバーが率直に意見を述べたり、疑問を投げかけたり、あるいはミスを認めたりしても、非難されたり罰せられたりしないと確信できる状態を指します。このような環境は、チームの学習能力、創造性、問題解決能力を高める上で不可欠です。
新任リーダーの皆様の中には、「どうすれば部下が本音を話してくれるのだろうか」「心理的に安全な雰囲気を作るにはどうすれば良いのだろうか」といった課題を感じている方もいらっしゃるかもしれません。心理的安全性を高めるためには、様々な働きかけが必要ですが、それ以上に「心理的安全性を損なわないようにする」ことが非常に重要です。
本稿では、リーダーが無意識のうちに行ってしまいがちな、心理的安全性を壊してしまうNG行動とその具体的な改善策について解説します。ご自身の普段の言動を振り返る機会としてご活用ください。
なぜNG行動を知ることが重要なのか
心理的安全性は、一度損なわれると回復に時間がかかります。たとえリーダーに悪意がなかったとしても、特定の言動がメンバーに不信感や萎縮をもたらし、それがチーム全体の心理的安全性を低下させてしまうことがあるのです。
ポジティブな働きかけを増やすことも大切ですが、まずは心理的安全性を「減点」させないための注意点を知っておくことが、安定したチーム運営の第一歩となります。
リーダーが避けるべきNG行動とその対策
ここでは、リーダーが注意すべき代表的なNG行動と、その改善のための具体的な対策をいくつかご紹介します。
NG行動 1:メンバーの話を途中で遮る、軽く扱う
メンバーが何かを提案しようとしたり、問題提起をしようとしたりする際に、リーダーがすぐに結論を急いだり、「それは違う」「前に検討した」「忙しいから後で」といった態度で話を遮ったり、内容を十分に聞かずに軽く扱ったりする行動です。これは、「意見を言っても無駄だ」「どうせ聞いてもらえない」という感覚をメンバーに与え、発言をためらわせる原因となります。
【対策】
- 最後まで傾聴する: まずは、メンバーの話を最後までしっかりと聞くことに集中します。話の途中で反論したくなっても、まずは最後まで聞き、理解しようと努めます。
- 受け止める姿勢を示す: 話を聞き終わったら、「話してくれてありがとう」「そういう視点もあるのですね」といった感謝や受容の言葉を伝えます。すぐに賛成できなくても、「一度持ち帰って検討します」「〇〇の点はもう少し詳しく聞かせてもらえますか?」など、真剣に受け止めている姿勢を示します。
- 意図を確認する: 話の背景や意図が不明瞭な場合は、「なぜそう考えたのですか?」「具体的にどのような状況で困っていますか?」など、質問をして理解を深めます。
NG行動 2:質問や疑問に対して否定的な反応をする
メンバーからの質問や疑問に対して、「そんなことも知らないのか」「なぜ自分で調べないんだ」「それは常識だろう」といった非難がましい言葉を口にしたり、明らかに面倒くさそうな態度をとったりする行動です。これは、「質問すると恥ずかしい思いをする」「無知だと思われるのが怖い」という恐れを生み出し、知的好奇心や学習意欲を削ぎます。
【対策】
- 質問を歓迎する姿勢を明確にする: 日頃から「どんな小さなことでも遠慮なく質問してください」「疑問に思ったことはどんどん共有しましょう」といったメッセージを伝えます。
- ポジティブに反応する: 質問を受けたら、「良い質問ですね」「そこに気がつきましたか、素晴らしい」など、肯定的なフィードバックから入ります。すぐに答えられない場合でも、「一緒に考えてみましょう」「調べて後で回答しますね」と協力的な姿勢を示します。
- 背景を尋ねる: なぜその質問に至ったのか、どのような状況で疑問を持ったのかなど、質問の背景を尋ねることで、メンバーの思考プロセスや課題を理解する手助けにもなります。
NG行動 3:失敗やミスを過度に責める、犯人探しをする
チーム内でミスが発生した際に、個人の責任を過度に追及したり、感情的に叱責したり、誰が原因かといった犯人探しに終始したりする行動です。これは、「失敗すると大変なことになる」「ミスを隠さなければならない」という恐怖心を植え付け、問題の早期発見や再発防止に向けた情報共有を妨げます。
【対策】
- 失敗を学びの機会と捉える文化を作る: ミスが発生したら、まず原因究明と再発防止に焦点を当てます。「なぜ起きたのだろう?」「どうすれば次は防げるだろう?」といった建設的な問いかけをチーム全体で行います。
- システムやプロセスに目を向ける: ミスは個人の能力だけでなく、多くの場合、仕組みやプロセスの問題によって引き起こされます。「個人に非はないか?」よりも「システムに改善点はないか?」という視点を重視します。
- 責任の所在を明確にしつつも、再チャレンジを促す: 確かに責任は存在しますが、それを必要以上に責めるのではなく、ミスから学び、次に活かすためのサポートを行います。「今回の件は残念だったけれど、この経験を次に活かしてほしい。どうすればそれができるか一緒に考えよう」といった前向きなフィードバックを心がけます。
NG行動 4:情報共有が不十分で、透明性に欠ける
チームの目標、進捗状況、意思決定のプロセス、あるいはリーダー自身の考えや懸念事項などを、メンバーに十分に共有しない行動です。情報は権力の源泉ともなり得ますが、情報が一部のメンバーやリーダーに留まると、他のメンバーは不安を感じたり、不信感を抱いたり、「自分は信頼されていない」と感じたりする可能性があります。
【対策】
- 可能な限り情報をオープンにする: チームに関わる情報は、機密性の高いものを除き、可能な限りオープンに共有します。目標設定の背景、プロジェクトの進捗、リーダーの意思決定プロセスなどを説明します。
- 定期的な情報共有の場を設ける: チームミーティングや専用のチャットツールなどで、定期的に情報を発信する機会を作ります。
- メンバーからの質問や意見を受け付ける窓口を作る: 情報共有後に疑問点や意見があれば、気軽に述べられるような雰囲気や仕組みを作ります。
NG行動 5:ダブルスタンダードや不公平な扱いをする
特定のメンバーに対してのみ態度が違ったり、好き嫌いで評価や機会に差をつけたりする行動です。リーダーの言動に一貫性がなく、公平性に欠けると、メンバーは不満や不信感を抱き、チームへの貢献意欲が低下します。
【対策】
- 判断基準を明確にする: 評価や機会配分などの判断基準をメンバーに分かりやすく示します。
- 公平な態度を心がける: どのメンバーに対しても、平等で敬意を持った態度で接します。個人的な感情や先入観にとらわれず、客観的に状況を判断するよう努めます。
- 説明責任を果たす: なぜそのような判断や対応をしたのか、必要に応じてメンバーに丁寧に説明します。
まとめ:心理的安全性を育むための継続的な努力
本稿でご紹介したNG行動は、リーダーが意図せずに行ってしまうこともあります。重要なのは、こうした行動が心理的安全性を損なう可能性があることを認識し、常に自身の言動を振り返り、改善しようと努めることです。
心理的安全性の高いチームは、メンバーが安心して発言・行動できるため、より良いアイデアが生まれやすく、問題にも素早く対応できます。これは、結果としてチーム全体のパフォーマンス向上に繋がります。
今日から、ご紹介した対策の中から一つでも実践してみてはいかがでしょうか。心理的安全性の高いチーム作りは、リーダーの継続的な意識と努力によって育まれます。